やっと週末。精神的にも、体でも疲れ果てているみたい。考えるのも遅い。ナータンの世界へ強く引かれているのを感じているけど、ずっとそこにいるわけにはいかない。
朝視はソファに心地よく座り込んでいて、今週のことを頭の中で次々と流せ、整理しようとしている。
水曜日、日本語の授業の前。マネージャのナターリヤさんに廊下でぶつかって、「今日英語の初級2グループの学生が来て、クラスがすばらしいと褒めてたんだよ」と言った。朝視は唖然と佇んでしまった。夜遅く行うその授業はどうしようもなく質が低いと思っていたのである。よくへとへと状態で、書き間違いを時にして、教師にふさわしくない無様な顔を見せてしまうのではないのか?それでも、よかったって「ありがとうございます。本当にうれしい極まりです」と答える。「こちらこそありがとうよ」と微笑んでくれるナターリヤさん。
木曜日の夜、初級2の時間が始まろうとしている。朝視は学生とウォーミングアップしている。意外とまだ開いているドアを抜け、この前のグループの初級1の学生ジャンナーは入る。朝視は少し驚いて、笑顔でジャンナーを見る。「はい、ジャンナー?」中年の学生はコーヒーのカップを渡す「どうぞ、コーヒーを。私たちみんなからですよ」朝視は心が感謝の気持ちに溢れ、手を胸に押し付けているの、カップを受けられない。ジャンナーはカップを机にそっと置く。「ありがとうございます。意外で本当にうれしいです」朝視はいよいよ言い出す。「私たちみんなからね」と言い残して、失礼する。
「それは何?」座っている学生が尋ねる。「さっきの授業がよかったのようなので」と、朝視はうれしさで手で顔を覆う。
金曜日、日本人のボランティア団体が事務所に来ていた。朝視は不意に会議に参加するよう校長から招待をもらった。二人の男性と一人の女性、24歳と23歳。積極的に日本語の授業に参加したがるらしい。来週の水曜は一緒に授業の準備をする予定を立てた。会議ではかなり不器用に感じていたけど、相手は学生で同い年の人だったってことはよかった。一緒にの授業を楽しみにしている。
この週末は今週誕生日があったヴァルヴァーラさんにプレゼントを作らないと。そして、知らない人にキスされた事件についてちゃんと意見を述べないと。木曜に、やさしいヴァルヴァーラさんに誕生日があったから、チョコレートをもらったのに、まだ何もしてあげていない。ヴァルヴァーラさんのために何かをしてあげたい。でも今日は無理でしょう。頭はぼうっとしてる。異世界に引かれてる。今日はその呼び声に譲ろうかな・・・
ガブリエルが生きていて本当によかった。二人は再会してうれしくてたまらなかった。どんなに辛くても、お互いのそばにいれば、何でも乗り越える。ガブリエルはナータンのことそのまま愛している。賛成できないことにも付き合う。怒っていても、仕方がない。一緒にいてあげる。離れたりはしない。けっして一人で残さない。ナータンがないといられない、と。ガブリエルはそのような人でよかった。彼を見ると、彼の笑顔を眺めると、声を聞くと、ナータンをやさしく大事そうに触れているのを目にすると安心する。とうか、二人に幸せを・・・
朝視は吐息をついて、本に手を伸ばした。旅に出よう。